ワイルド・スピード MAX

2009年、米国、ジャスティン・リン監督

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シリーズ1,2は登場人物と物語が続いていたものの、3で少し外伝的なお話になった。それを、シリーズでおなじみのキャラクターたちが活躍する状態に引き戻したシリーズの要となる作品。

しかし日本車要素は低められて、その代わりにアメ車大活躍。日本車のスポーツカーが主役というシリーズの設定がカーアクション映画に軸足を移した作品でもあると思う。

それでもニッサンスカイラインGTRやスバル・インプレッサが大活躍する。個人的にはちらりとだけ映るシルヴィアS15がシブ過ぎる。

毎回、次のシリーズへとつながるラストシーンが上手い。

ワイルドスピードx3 TOKYO DRIFT

2006年、米国、ジャスティン・リン監督

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冒頭、米国のハイスクールで、主人公は体育会系の男とのレースに臨むところから物語が始まる。スクールカースト上位で乗ってる車はダッジ・バイパーのジョック、主人公は学校内でも孤立していて車もデカくて古いシボレー。はぐれ者の物語だということを分からせてくれる。

東京に舞台が移っても主人公は居場所を見つけて転々とする。車だけが生きがいのように見えるけれど、様々な鬱屈を車でとばすことによって憂さを晴らしている。
ワイルドスピードシリーズの原点に帰った居場所を失った人間たちが寄り添って生きている姿が描かれる。

日本の景色がとても美しい。日本人を演じている俳優の日本語がカタコトだったり、景色の中に変なカタカナが並んでいたりとガイジンが見た東洋の国というイメージはそこここにあるが、自動販売機や町の景色、車や人など、あまり美しいとはいえないごく普通の日本の情景がそこにある。美的なものばかり描いていてもそれはファンタジーでしかなくて、日常のどうしようもなさをえがいてこそ時代を活写できることを示している。

前2作のシリーズにおける登場人物は一切出てこないかと思わせておいて、シリーズの中の1作であることをほんの短い時間にはっきりと宣言するシーンがある。憎い演出だと思う。

ワイルド・スピードX2

2003年、米国、ジョン・シングルトン監督

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前作から引き続き出演しているのは、主人公のポール・ウォーカーと黒人のFBI捜査官トム・バリーだけで、他は新たな登場人物で占められている。が、新たな相棒となったタイリース・ギブソンは、後のシリーズで活躍することになり、おとり捜査官のエヴァ・メンデスの色香は特筆すべきものである。

舞台もLAからマイアミに移り、内容も社会の低層の人間を描いた前作から、単純なカーアクションの娯楽作へと進化している。

それでも日本車のスポーツカーが活躍するというコンセプトは維持していて、三菱のランサー・エヴォリューションとエクリプスが大活躍するし、ポール・ウォーカー登場時の愛車は日産スカイラインGTR、デヴォン青木が駆るのはホンダS2000、と車を見ているだけで十二分に楽しい。

その後、シリーズは内省的な『TOKYO DRIFT』へと引き継がれる。

ワイルド・スピード

2000年、米国、ロブ・コーエン監督作

www.youtube.com記念すべき『ワイルド・スピード』シリーズの第一作目となる作品。

劇中で、ポール・ウォーカー(ブライアン)が廃車をヴィン・ディーゼル(トレット)の整備工場に持ち込み、そこで働くメカニックのジェシーが、車の改造を解説するシーンがある。ジェシーの知識にポールは感心して「お前はMITに入れる」と言うが、彼は、代数と幾何は成績が良かったが注意力が欠如していて登校拒否になり学校をドロップアウトしたと語る。

これをどう見るだろうか。

ジェシー発達障害と言われる人を描いているのだと思う。一芸に秀でているが、世間や社会には馴染めない人間として登場している。そういう人間を描いている奥深さをこの映画から感じて欲しい。

この映画はカーアクションと派手な銃撃戦による単純な娯楽作のように見える。そう思うのも無理はないし、そう読みとっても何も問題はない。
もちろん車への愛が充ち満ちている。シビックが、シルビアが、RX-7が爆走する。その快挙に拍手を送る、それでも充分に楽しめる。

しかし、この映画で描かれるアメリカではアメ車よりも日本車のストリートカーが安く手に入り、金のない若者には人気があったという背景も心得ておいて欲しい。それは貧者の武器とも言えるものだったのだということを。

主人公のポール・ウォーカーにしても平の警官からおとり捜査に志願することで「刑事になりたいんだろ?」と言われる。低層にいる身分の人間だ。

これはアメリカの庶民を描いた映画なのだと思う。小奇麗な上流階級のロマンスではなく地べたで生きる人のあがきを描いた映画だと思う。HONDAの高級車NSXトヨタがぶっちぎる場面にそれは象徴されていると思う。

最高のアメリカ映画です。

お嬢さん

2016年、韓国、パク・チャヌク監督作品

日本統治下の朝鮮で莫大な遺産を相続している令嬢と叔父、その遺産を狙う詐欺師と、その一味として女中に成りすまし潜り込んだ女、彼等が入り乱れるフェティッシュな世界観の物語。

www.youtube.comパク・チャヌク監督の作品は『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』の復讐三部作が死ぬほど好きなのですが、それ以降の作品は未見なのです。だってレンタル屋にもあまりないし、どこの映画館でもやってるわけじゃないので見逃すとなかなか観られないから。
なので今回は見逃すまいと劇場に出掛けたのですが、感想はというと、そんなに面白いと思わなかった。結末もなんだか予想できたし。でも二転三転する展開を描く構成には感心したし、主演のキム・ミニの美しさも堪能した。

一番思ったのは「パク監督の最近作はこんな感じに進化したんだなあ」ということ。
復讐三部作は作品が進むにつれてパク・チャヌク作品のフォーマットが整っていくのを感じていて、それは映画の質感が漫画的というかお芝居的というか、リアルな世界じゃなくなってきてる。リアルさを追求するよりも寓話的というか幻想的というかそういう描きたい世界を描くことに注力しているように思える。その進化は本作『お嬢さん』でもより進んでいるように思えて、令嬢の住む館はファンタジーかと思えるような豪壮で奇妙な作りだし、演者たちも本当にいそうな人物と言うよりは、漫画のキャラクターのように見える。どれも現実ではなく非現実感の方が大きい。
パク・チャヌク作品では『復讐者に憐れみを』で見られた現代韓国の汚い部分を描いていたのがとてもリアルで好きだっただけに惜しいような気がするのです。でも残酷描写だけは一貫してエグいです。そこは変わらない。

もひとつ言っとくと主演のキム・ミニは松嶋菜々子にちょっと似てるかなあって思いました。