残念こそ俺のごちそう。そして、 ベストコラム集/バッキー井上

Meets Regionalで長く酒場についてのコラムを連載する著者のベスト盤

バッキー井上さんという人は酒場について書く人だ。酒や肴のウンチクを語る人ではない。どこそこの酒蔵のあの酒が良いとか肴は何が合うとか、この店の料理はどこそこから仕入れた高価なものでその味は絶品、みたいなことは語らない。それが簡単なことだとは言わないけれど、それは知識であって経験ではないような気がする。そういう話はそれを求めている人以外には鬱陶しいものだ。

酒場について書くといっても酒場で出会った人々のエピソード、やんちゃ話、艶のある話、そんな暴露はしない。では何を書いているのかと言われれば何を書いているのだろう。ちょっと昔の話、最近思っている話、おもろい人と酒を挟んで対峙した話、そんな感じだろうか。なんとなく酒場の空気について書いておられるという気もする。

酒場に通い馴れた人たちというのはなんだか貫禄があるのだ。厚みと言ってもいいし懐の深さと言っても良いかも知れない。それは色んな酒場で色んな酒を飲んで色んな人と話をしているからだろう。少しいい加減で妙に曖昧で何事も断定せず誰の味方でもないような感じ。それでいて話題は多く、話せば面白い。そんな人が多い気がする。

そんな大人になりたかったけれど、その道は遥か長く、なかなか困難な道でもあるので、我々は酒場に行く代わりにバッキーさんの文章を読んで酒場に行ったような気分で良い気持ちになるのでした。