妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ/橋迫瑞穂 著

妊娠と出産を控えた女性たちの周囲に広がるスピリチュアリティ社会学者が考察する本。

 

つい先日『あなたを陰謀論者にする言葉』という本を読んだ。
陰謀論、オカルトなどの歴史と変遷が綴られていて大変面白く勉強になった本で、そこにはスピリチュアルの起源と伝播についても書かれていた。読了後「なぜこのような荒唐無稽な考えを信じてしまうのか?」ということが最初に思ったことだったが、本書『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』には、その「なぜ」が書かれているのではないかと思って手にとってみたのでした。

 

読後の感想としては「そらしゃーないわ」なのだ。

その心境で、その環境なら仕方ない。はまってもおかしくない。頼ってしまうのも仕方ない。

少し前にSNSで、妊娠期の女性が近しい既婚子持ちの女性から「妊娠の痛みを通過しないとちゃんとした母親にはなれない」と言われたけれど、別の女性から「男は何も痛い思いはしないけれど父親になれるのだから大丈夫」と言われて心のつかえがとれた、といった話をみかけた。
その通りで、痛みといわず男というものは子を持つに至るまでに自身の体は何一つ変化しない。気楽なものなのだ。
対して女性というものは妊娠すればたちまちの間に体は変化する。体内に新しい生命が宿るのだから当たり前と言われればそうだが、その当たり前は最初の妊娠であればどの女性にとっても初体験で、子の生命と健康を預かる身で何をどうすればいいのか、学んでいかなければならない。義務教育で何から何まで教わったわけでもない。

体は刻々と変化していって、自身の体調、そして気分も影響される。不安もある。それは出産に対する不安でもあるし、元気で五体満足な子供が生まれるかどうかという不安でもある。パートナーが協力的であれば、幾分かの助けにはなるだろうが、新しい命が宿っているのは母親である自身の体の中で、夫も手出しはできない。責任を一身に背負っているという気持ちにもなる。

気分を転換するのも難しいだろう。酒も飲めない。気晴らしに出かけるのも大変だ。食べるものにだって気を使う。病気になったりするわけにもいかない。薬にも注意しなければならない。

その点、男なんて適当に食って適度に寝て時折オナニーでもしていれば体のメンテナンスはさほど必要ない。体を繊細に扱う必要がない。

不安を和らげる為には正しい知識が必要だ。図書館で試しに、普段は絶対に手に取ることがない育児・妊活系の雑誌をパラパラと見てみたが、情報が洪水のように押し寄せてくる。そこに怪しげなものが紛れ込んでいても区別はつかない。

スピリチュアルといったって安産祈願のお守りくらいならどうってことはないだろう。しかし「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」といったものは、医療を軽視することにも繋がりかねない。そして本書で著されているように、それらが保守的な国家観へ繋がることが指摘されている。

人が不安になっているところにつけこんで、金をくすねたり、何かしらの考え方や思想をすべりこませたりする輩はろくでもない。コンプレックス・ビジネスや洗脳の手法と同じではないか。しかし科学や論理的な考え方が心の平安を与えてくれないなら、そのようなものはなくならないのだろうな。