山怪/田中康弘 著

山人が語る不思議な話。

山里の集落の住人、狩人、そんな山と関わる人たちから取材した、山であった不思議な話が沢山収められている。狐憑きだったり、狸に化かされたり、ヒトダマだったり、不思議な光だったり、大蛇であったり。
本書の中でも語られているが、狐火と言われるものは、リンが燃えたものだったり、どこか他所の光が反射したり、と不思議な現象には何かの説明がつくものかも知れない。
でも説明は要らないような気がする。不思議は不思議としてそのまま解決せずともいいのではないかと。ああ不思議だなあ、と思ってその謎が残った状態を楽しむような。
占いを批判したりする人もいるらしいが、まあなんとなく気にしたり、逆に機嫌が良くなったり、不安を取り除くような軽いきっかけになるくらいの楽しみ方であれば、何も言う必要はないのだろうか。理屈や論理や科学で何もかも説明しなくとも、余白というものがあっても良い気がする。
ただ本書で描かれるような事象を論拠にして、オカルトやスピリチュアルを肯定するのはちょっと違うんじゃないでしょうか、という話だし、占いもそんな風にはまってしまうと色々と弊害ありますよね、ということでしかない。

遠い昔の話ではなく、現代に生きる人たちに取材した内容なので現実と地続きに不思議な現象があることに独特の感触がある。著者の語り口も、怖がらせようと手練手管を使うという感じではなく、淡々と事実を記録する冷静な姿に良い印象があった。ま、夏だからちょっと怪談めいた本を読むのも良いかなと思って。