私とは何か/平野啓一郎 著

副題は、『「個人」から「分人」へ』。
個人の中には色んな人格や性格があり、それを分人と呼ぶことを提唱する本。

 

本書の中に書かれているように、「個人」とはそれ以上分割できないものだと考えられがちだけれど、対人関係によって人はその性格を変える。男ならば、家では夫だったり父だったりするものが、会社では社員だったり課長だったりする。女も同じ。その立場や役職、相手によって色んな顔になる。それを人によって顔を変えるということではなく、個人を更に分割した分人という単位で考えてみましょう、という内容。読み進めると、確かにその考え方は理にかなっているなあと納得させられる。
何かしら一貫した性格であったり、考え方であったりを持つ人は「ぶれない」という評価を与えられて尊敬されるものだと思うけれど、我々のような、しょうもない人間はそうもいかない。気をつけていないとそうなる。全然気をつけていない人も多く見かけるけれど。
だいたい、首尾一貫していると自分では思っていても、何かしらの矛盾をはらんでいるもので、それを他人に指摘されると怒ったり不機嫌になったりして、それを認める方向にはいかず、なんとか整合性を整えるような屁理屈を自分で編み出したりする。そんな自分が嫌になったりするけれど、個人の中に様々な顔があると思えばあまり悩まなくても済みそうだ。ある程度の矛盾は誰にでもあると思えば気も軽くなる。

「女も同じ」と書いたけれど、女性は妻から母親になるのには明らかに肉体的試練を通過するので、その点で言えば男は気楽なものなのかも知れない。