ユニクロ潜入一年/横田増生 著

前著『ユニクロ帝国の光と影』でユニクロから訴えられたものの勝訴した著者は、その後ユニクロ側が取材に応じないことから、アルバイト社員として潜入し内部からユニクロを取材することになる。 

ユニクロ潜入一年 (文春文庫)

ユニクロ潜入一年 (文春文庫)

 

読む前は、ユニクロのブラックな労働状況を潜入取材することで明らかにする!みたいな内容かと思っていて、そういう内容を期待して読み始めたけれど、読後の感想としては「衣料品販売の仕事って大変なんやなぁ」という感想です。
サービス残業の実体や、そうせざるを得ない実情はもちろん描かれるけれど、それよりも著者が潜入取材して店舗の内部で実際に働く描写を読んで、販売店で働く人たちの仕事の大変さを知った感じ。
かなり厳しく制度的にサービス残業は禁じられている様子だけれど、実状はやるべき仕事とそれに割り当てられている時間が釣り合っていないというのが本当のところのようで、その差を埋めるべくサービス残業が発生しているようです。
その実状が下から上に報告されて、それではどうすればいいのかを解決する方向へ向かうのが改善だけれど、トップダウンのシステムにがんじがらめになっていて、改善するべき膿が上の方に届かないことが問題みたい。人件費の抑制が大きな問題になっていることも根幹にある模様。
なのに社長の台詞は

経費に関しては総額が前年を上回らないようにして頂きたい

とか

今期は経費の使い過ぎにより、成長ではなく膨張であった。必ず、今期・来期も経費は金額で前年を超えない予算に組み替えて頂きたい。

みたいな感じ。
強固なトップダウンを制度の柱とするなら問題の解決もトップダウンで行うべきだろうが、「頂きたい」みたいなことで下っ端に丸投げだとしか思われない。
問題の存在とその状況を明らかにし、なぜそうなっているのかを精査して、改良をはかるのが物事の改善の道筋だと思うが「頂きたい」って言えば済む仕事って「楽な仕事やな」としか思えない。ご立派なことで。

著者は50歳を過ぎた年齢でユニクロに潜入してアルバイト社員として働いていたわけだけれど、レジ打ちや接客などその歳でよく憶えてこなしたなと感心するばかりでした。ユニクロでの仕事の過酷さよりも衣料品販売の仕事の大変さが伝ってきて、そういう面でとても興味深い内容の本でした。