くっすん大黒/町田康 著

 

無職で妻も家から出て行き無為の生活を送る男が、家の中にある金属製の大黒を捨てに行ったり、謎の芸術家を紹介する映像作品に参加したりする話。 

くっすん大黒 (文春文庫)

くっすん大黒 (文春文庫)

  • 作者:町田 康
  • 発売日: 2002/05/10
  • メディア: 文庫
 

 

1996年に発表された町田康のデビュー作。もう20年以上もキャリアのある人だから著作も多いくて幾つかは読んでいるはずだけれど、どれを読んだか憶えてない。でもデビュー作は読んでなかったはずなので読書。

町田康の小説を読むと力が抜ける。というか、あまり真剣に物事を考えなくても良いのではないかという気になってくる。別に著者が「お前等は気真面目過ぎるもっと適当に生きなさい」などとは一言も言っていないのだけれど、そういう気持ちになる。
この小説の主人公も適当。酒ばかり飲んで明日のことや将来のことなど微塵も考えていない。目先の小銭に釣られてあまり興味も関心もない仕事を受けたりする。
たぶん町田康という人が投げやりなところのある人なんだと思う。投げやりと言って悪ければ達観したとでも言うべきだろうか。世事に巻き込まれてあくせくしているのではなく、世の中を傍から見ている感じがある。
ただ、町田康という人はかつて町田町蔵だった人でPUNKSだったわけで、PUNKというものはオリジナルパンクの時代のロンドンなら兎も角、ずっと世の中のメインではなく傍流だったわけで、そういう出自によって世の中の中心じゃなく端から見ている気分というのが備わっているような気がする。

小説であるから主人公は行動し、その先には何かしらの事件が巻き起こるけれど、そんなことはあまり関係なくて、どうにもやるせない、というかやるせないという気持ちすら起こらない、無為の出来事が述べられる。物語の起伏だとかそういうものを読むのではなくて、ずっと温い湯につかっていて心地良いというような、無駄といえば無駄な時間、そんな気持ちになる小説。中原昌也もそんな感じだと思う。好きか嫌いかで言えば好き。