蜜蜂と遠雷/恩田陸 著
亡くなった巧妙なピアニストからの推薦状を携えた経歴不明の少年、幼い頃に天才少女と称されたものの演奏活動から逃げ出した音大生、有名ピアニストの弟子であり日系と南米の血を引く才気あふれる青年、社会人でありながらもう一度演奏家として挑戦する男、その他各国から集まった天才秀才たちが競い合うピアノコンクールのお話。
面白かった。
本作は直木賞を受賞している小説ですが、この授賞式の模様をニコニコ動画で見ていた記憶がある。その番組の中で、評論家の栗原裕一郎氏が本作を評して「ドランゴンボールのような異能者バトル」と評していたのが今になってよく分かる。ピアノの天才たちがその技を競い合うのは物語の形としてはバトル物といえなくもないと思う。
そういう、誰が一番強いのか、コンテストで優勝するのは誰なのかという物語の結末をはらはらとしながら読み進める気持ちもあったのだが、音楽のことをこんなに色んな言葉で表現できるのかという驚きもあってプロの作家というものはなんと凄いことかと感じた。
自分も音源を聴いた感想文をこのブログに書いたりしているけれど、結局あまり書けることはなくて、文章で音楽を表現するのはとても難しいと感じてる。
しかし本作では、登場人物たちがコンクールの舞台で演奏する場面、ステージ外で音楽について思考する場面、あらゆる場面で音楽を文章で表現していて、単行本で500頁ほど2段組みの文章量になっている。そしてそれらが退屈だったり重複する表現が頻出することなく、まさに美しい音楽が今物語世界の中で奏でられていると思わせる。
感想文を書く素人と比べるべくもないけれどプロの作家というのは本当に凄いと思う。
現在、映画化作品が公開中なのでこの小説をどう映像化しているのか観てみたい気がします。