新釣れんボーイ/いましろたかし

 いましろたかし(神様)の名作『釣れんボーイ』の続編です。

新釣れんボーイ (ビームコミックス)

新釣れんボーイ (ビームコミックス)

 

 『釣れんボーイ』は主人公の漫画家ひましろ先生の日々の生活と趣味の釣りが描かれるだけのお話です。であるけれど、エッセイ漫画でもないし完全な創作でもないという微妙な空気感が心地良い名作の誉れ高い作品なのです。是非ご一読されることをお勧めします。

本作はその『釣れんボーイ』の続編となるものですが、続編って言っても連綿と続く物語があるわけでもないので相変わらずひましろ先生の日常が綴られています。身体にがたがきて病院、マッサージに通い、病気に怯え、世情に憂い、猫を可愛がり、そして釣りに行くのです。
原発幻魔大戦』以降、いましろ作品は原発反対、TPP反対、改憲反対の姿勢をとっていて、政治情勢に対するぼやきが多めになっているのが前作とは少し毛色が違うところでしょうか。ネトウヨの人は意見を異にする人は嫌いでしょうから読まない方がいいと思いますよ。

なぜか漫画講座的なものを語りだすひましろ先生が登場する一篇があるのですが、そこでひましろ先生は「マンガとはとどのつまり「文章」である」と述べておられます。深いです。
いましろ作品はその空気感が独特で気持ち良いんですよね。それは文章に例えるなら語感といったリズム、漂う空気感が心地よいのです。時に可笑しく時に悲しく、そしてなんとも言えない無常感さえも心地よい。

文章って空気を創り出すものだと思うんです。雰囲気といっても良いと思う。何を語るかよりどんな空気を創り出すかに真価が問われているような気がする。良い文章と称されるものは良い空気、独特の個性的な空気、味わったことのない情感によって新しい空気を生み出している文章のことだという気がします。言葉を連ねていって、その順列組み合わせは無限にあって、それをどう配置するかで空気が醸成される。

でも詰まるところ、その空気を創り出すのってたぶん語り口に拠るところが大きくて、それはたぶん人柄なんですよね。技巧で変化させることもできるだろうけど、それでもやはり行き着くところは人柄なんじゃないかという気がします。だって文章からはその人の人格が滲み出るから。たぶん面白い人は何を書いても面白いんだと思う。

いましろ作品が面白いのは多分いましろたかしという人が魅力的でその語り口が素晴らしいんだと思います。勿論合わない人もいるんでしょう。でもそのリズムやグルーブにのれればとても心地良い。なんてことない話であればあるほど滲み出る何かがあって面白い。

いましろ先生はずーっとこういう漫画を描き続けて欲しい。枯れていく様さえ見たい。そんな漫画です。

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