歩道橋の魔術師/呉明益 著

台北にある商店街、中華商場とそこに住む人々を子供たちを軸に描く連作短編集。
作者は1971年の台北生まれで、実際に中華商場で暮らした経験を持つ小説家。台湾では若手の新鋭と呼ばれているみたい。

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

歩道橋の魔術師 (エクス・リブリス)

 

 中華商場というのは3階建てくらいのビルで、そこに小売店が沢山入っていて商人たちの家族もそこに住んでいるという建物。その建物が何棟もあって歩道橋で繋がっていて複合的な商業施設になっている。作者が子供の頃のお話なので1980年前後のお話で、今は取り壊されてなくなっているそうです。
今はあまり見かけないけれど、日本でも昔は市場があちこちにありましたよね。あれが複層的になってる感じだと思う。

帯にもあるように懐かしさが漂う小説たちです。日本で云えば昭和の子供のお話。ただ、小説の中で何かが起きるのかというと何も起こらない。ちょっとした出来事は起こるのだけれど、大したことは起こらない。なので、物語的に何かが起こってそれがどう転ぶか、解決するかというのが面白さではない。でも独特の空気感が広がっていてそれはとても心地よい。
純文学的面白さなのだと思うけれど、はてこういう感じはどこかで味わったことがあるようなと思うと、村上春樹の小説のような気がします。
どちらかというとエンタメ小説を読む方なので、何作かしか村上春樹は読んでないのですが、独特の空気感は感じるけれど熱狂するほど面白いとは思えない。その空気感を文章で紡ぎ出すということについては感心するのだけれど、それ以上の感心はないという感じなのです。村上春樹の近作も読んでいないので、読んでないのに勝手なこと言ってるんですが、でもあまり進んで読んでみようと思わないんです。

ネットで本作の感想文を色々見てみたら褒めてる人や2015年のベストに入れてる人もいるので俺は間違ってるのかなとも思うんですが、どうなのかなあ。読んでいる間、その心地よさを味わえばそれでいいのかなあ。感想は人それぞれあっていいものだとは思うのだけれど、なんだか文学の楽しみ方を知らないような気になりました。