断片的なものの社会学/岸政彦 著
社会学者である著者が出会った人々の何気ない行動や言葉から紡ぎだされる随筆集。
本の帯には
“路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ…… 人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。 社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」を
めぐるエッセイ。”
とあります。本屋で、この紹介文と表紙を見てなんとなく手にとって読んでみた。こういう出会いがあるから本屋は良いのだと思う。amazonではこういう出会いはないから。
色んな人の奇妙だったり普通だったりする人の逸話とそこから派生して著者の考え方などが記されている。
何てことない言葉や行動が取り上げられるのだけれど、それらの殆どは著者でなければ見過ごしてしまうようなものじゃないかと思う。そういうことに気付くかどうかというのはやっぱり感性なんだろうなと思う。
それ以外になんと紹介すれば良いか分からない。ただ冬の空気のようなシンとして澄んだ空気が充ちているような空気感のある文章です。少し引用すると
“私たちは、私たちのまわりの世界と対話することはできない。すべての物の存在には意味はない。そして、私たちが陥っている状況にも、特にたいした意味があるわけではない。
そもそも、私たちがそれぞれ「この私」であることにすら、何の意味もないのである。私たちは、ただ無意味な偶然で、この時代のこの国のこの街のこの私に生れついてしまったのだ。”
この一文が全体の雰囲気を表しているような気がします。
それと、動物学というものは野生生物の生態を観察する自然科学の分野だけど、社会学って人間の生態を観察する学問なのかな、とちょっと思いました。