聖の青春

2016年、日本、森義隆監督作

難病に侵されながらも棋士として活躍した村山聖棋士生活を描いた作品。

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凄まじい傑作。

映画の素晴らしさというのは物語の結末・オチがどうとかそういうことではない。上映時間の全てに緊張感が漲っているかどうかにかかっている。そしてそれが美しいかどうか。
美しいといっても、誰でもが美しいと感じるような蝶や花のような美麗なものが連続して映し出されるだけではなく、その場面に合った情景が美しいと感じられるかどうかで、この映画で言えば将棋の対局の場面で窓外にうつる雪の景色といったものだけでなく、大阪の下町を疾駆する軽トラさえ美しく描かれている。棋士が打つ駒のアップ、それが移動するという無期的なものでさえ最高に美しく撮られている。

俳優の力も凄まじい。主役を演じた松山ケンイチは体重を増量して映画に臨んだだけでなく、映画という物語の中で生きている人物として完全だった。
羽生善晴を演じた東出昌大は、ただ似ているというだけでなく、羽生が乗り移ったかのようでこれも完璧な演技だったと言うほかない。村山の母親を演じた竹下景子の健気さと子を病気で失う悲しさ。村山の師匠を演じたリリー・フランキーのわざとらしくない、それでいて弟子に対する愛情の深さなど、端役に至るまで俳優の力が冴えわたっていた。

映画は色調というもので画の印象をコントロールする。アメリカ映画にはアメリカらしい色合いがあるし、他の国にもそういうものがある。
この映画は将棋という日本独特の文化を描いていて、そこで映し出される日本間であるとか将棋の盤面であるとか、また町の情景などが日本でしかあり得ない色調に統一されていてそれが独特の美しさと静謐さを生んでいる。どんな場面も美麗で格がある。

原作は読んでいて過去に感想文も書いていた。そこでは、ありきたりの難病物の映画化にならなければ、なんて書いていたが、そんなものを超越するほどの傑作だった。もし未見の方が居られれば是非観賞することをお勧めします。凄い傑作だから。

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新型コロナのせいで映画館に行くのも憚られる時勢で、ビデオ鑑賞の感想文が続いています。でもやっぱり、映画館に行ってお金を払って観ることが映画を作った人に一番報いる行動なんだと今更ながら思っています。ライブとか映画とかを観に行きたい。映画や演奏家の労力にお金を出して鑑賞することが一番だと思うから。