カリスマ

1999年、日本、黒沢清監督作

二人の人間を死なせてしまった刑事の男は、休暇を申し渡され、森に迷い込む。その森では一本の木を守る人物とその木を奪おうとする人達、そして植物学者の女がいた。木を巡る彼等の駆け引きが行われる。

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黒沢清監督というのはシネフィルの間では評判が高いみたいだけれど、自分にはその魅力がいまひとつ分からないでいる。何作かのホラー映画はとても怖くて、不穏な雰囲気が充満していたのが印象深かったけれど『散歩する侵略者』なんてどう捉えれば良いのか困ってしまった。

本作もよく分からない。
仕事に疲れた男が森に逃避する。そこではカリスマと呼ばれる木があり、その木は根から毒素を分泌して周りの森を涸らしてしまう。その木を奪おうとする人たちと守る人がいてその争いに巻き込まれる、というお話ではあるが、物語自体は全くつまらない。なんのカタルシスもない。そして意味深な会話が繰り返されるが、その本意も分からない。
深読み裏読みをすればどうとでも読みとれる気がする。それほど物語は曖昧模糊としている。
でも映画であるならば、ある程度形のある物語は必要じゃないだろうか。シネフィルに人気の高いタルコフスキーだって一本の映画の中には読みとれる物語があり、その上で映像美があったり、深い主題があったりするのだから。
この映画を観ても、そこに登場する人物たちがどういう人で何の組織に所属している人なのかも分からない。動機も分からない。なので、木の所有権を争う、以外の物語は読みとれないし、それが暗喩する主題も分からない。
分からなくても映像に身を浸してそれが心地良ければそれで映画としては良いのだろうけれど、森や廃墟や投げやりな人たちという好みの事物は出てくるものの、全く酔えなかった。
たぶん波長が合わないのだと思う。でもなぜこんなに黒沢清が評価されるのかを知りたくなってまた彼の作品を観てしまうのだろうと思う。