デス・ウィッシュ

2018年、米国、イーライ・ロス監督作

妻と娘を暴漢に襲われた外科医は、不慣れな拳銃を片手に復讐を始める。
1974年にチャールズ・ブロンソン主演で公開された『狼よさらば』(原題:DEATH WISH)のリメイク作品。

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リメイク元の『狼よさらば』も観てみました。youtubeにあったから。

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狼よさらば』では、妻と娘を町のチンピラに襲われ、妻は亡くなり娘は精神を病んでしまいます。そして主人公は土木技術者ではあるものの朝鮮戦争に従軍した経験があり、父親がハンターであったことから銃の扱いには慣れている、というか凄腕という設定です。
そして仕事相手から銃をプレゼントされたことから、町のチンピラや盗人を撃ち殺していくことにのめりこんでいきます。

対してブルース・ウィリス主演の『デス・ウィッシュ』では、妻と娘を暴漢に襲われ、妻は亡くなるけれど娘は快方に向かう。そして主人公は外科医で銃の扱いには不慣れ。そして妻と娘を襲った真犯人を探し出し次々に殺していくことになります。

狼よさらば』と『デス・ウィッシュ』の違いは、旧版では町の犯罪者を成敗していく主人公が描かれるのに対し、新しい『デス・ウィッシュ』では、そのような犯罪者を成敗する場面もあるのですが、主軸は家族を襲った真犯人に復讐するという筋立てが違っています。
しかし、町山智弘の解説によると

www.youtube.com狼よさらば』は続編があるらしく、次作では家族を襲った犯人を追い詰めるという物語であるようで、『デス・ウィッシュ』は『狼よさらば』の1と2をミックスしたような物語になっているのかとも思います。
ただ、この辺りの改変は、今のアメリカでどのような物語が受け入れられるかということでもあるような気がします。無法に走る男の物語と、無法ではあるものの家族の為に行動する主人公というところや、娘が快方するという救いのない話にしなかったところなど、あまりに無慈悲な話は娯楽作としてはやり過ぎで観客に受け入れられない、というところではないかと思います。

リメイク元も本作も、法を超えて悪を成敗するという物語で、こういう映画は自警団ものというそうです。ロバート・デニーロの『タクシー・ドライバー』などもこのジャンルに含まれるそうで、悪党をこらしめるのに警察や法の裁きでは生ぬるい、遅すぎるという感覚は誰にでもあると思うので、フィクションとしては魅力があると思います。藤田まことの『必殺仕事人』なども同じ類型だと思います。

映画の中では、この自警団のような法を超えて悪を始末する行為に対する賛否の声が描かれていて、まことに真っ当だと思います。自分の思う正義を誰も彼もが押し通していては世の中は無茶苦茶になる。だってたいがいの揉め事は双方共自分が正しいと思っているから衝突するものだし。
映画の中にこのような場面が描かれたのは、フィクションの中で描くのはよいが現実にこのような行為は許されるものではないという警笛の意味もあると思います。

自警団ものの魅力は、警察や裁判のような法にのっとった裁きでは生ぬるい、遅すぎるという庶民の鬱屈が晴らされるというところが物語として爽快感で面白いのだと思うのだけれど、現実でもそれを肯定する人たちがいるような気がします。

アメリカのトランプ大統領誕生には「アメリカを再び強い国にするためには綺麗ごとを言っていないで本音で早急に行動すべき」といった気持ちを持っている人たちの支持があったように思います。これは自警団ものの、法に任せていても遅すぎる、という不満を晴らすのに似た構造にあるような気がします。

そして日本でもこのような気分は見受けられ、2015年の安保関連法案の審議過程では与党が招致した憲法学者が「法案は違憲である」と見解を述べたものの法案は可決されました。

www.youtube.comこの件で法案の支持者たちからは「だったら憲法九条を守っていれば北朝鮮や中国が攻めてきても大人しくしていなければいけないのか?」といった意見がネット上で散見されました。そこには、法を守っていても身が守れないなら法を超えてでも自衛すべき、といった自警団ものと同じ思想が流れているように思います。

フィクションとして楽しむものに罪はないと思うけれど、それと同じ構造の考え方が現実の世界で行われていて、そのことの危うさに気付いていない人が結構いるというのはとても恐ろしいことだと思います。

とはいえ、本作『デス・ウィッシュ』はそんなことを考えずとも復讐譚としての爽快さを楽しめばよいと思います。そして、拷問された犯人が「医者を呼んでくれ」と言うのに対してブルース・ウィリス演じる外科医は「俺が医者だ」と言う場面や、麻薬売買のギャングの元を訪れた主人公が「何の用だ?」と言われ「最後の客だ」と言った直後に銃をぶっ放す場面など、随所にちりばめられたギャグが楽しいです。でも最高のギャグはブルース・ウィリスが銃に不慣れってところだと思いますね。