美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道/春日太一 著

岩下志麻さんにインタビューし、過去の出演作からその女優としての経歴をひもとく一冊。 

美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道

美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道

 

 

「好きな女優さんは?」と訊かれたら
「若い頃の岩下志麻さん」と答えるようにしています。

昔の日本映画を観るのがマイブームだったころがあって、その頃に小津安二郎監督作の『秋刀魚の味』という作品を観たのです。岩下志麻さんは笠置衆の娘の役で、彼女の結婚を世話するという家族劇だったのだけど、その可憐さに魅了されてしまった。もうその頃は『極道の妻たち』に出演していた時期で、あの人の若い頃はこんなだったのかという驚きもあった。
この画像を見てもらえればその魅力は伝わると思うのです。

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誰しもが認める美貌だと思うのだけれど。

その後、中村登監督作の『古都』では生き別れた双子の二役を演じたり、野村芳太郎監督作の『疑惑』では弁護士役で桃井かおりと対決したりと、その容姿以外、女優としての実力の部分でも好きな女優さんになりました。

本書を読むと彼女の役作りというのは、その役(人物)の心理状況を考察して内面から演じるというものらしい。
この女性はなぜこのような行動にでたのか、その時の心理状況は、元々どんな人物なのかということを想像して役になりきる。なので映画の中で役を演じているとその役が乗り移ったようになって実生活でもその役がでてしまい、撮影終了後もしばらくその役が抜けないらしい。
若い頃は精神科の医師になりたかったというで、そういう性格、心理についての研究に関心があるからできることなのだろう。

また、夫である篠田正浩監督と独立プロを立ち上げた時の苦労なども語られていて、ただの美貌だけの女優さんではないという印象を決定付けた一冊だった。ますます岩下志麻という女優さんのことが好きになりました。

そして著者は、この長い経歴を持つ女優さんの出演作をすべて研究してインタビューに臨んでいるわけで、その準備作業の膨大さを思うと途方に暮れる。女優の魅力を引き出すという意味でこの著者も凄いと思ったのでした。