立ち去った女

2016年、フィリピン、ラヴ・ディアス監督作

1997年、フィリピンの地方の町。女は30年間刑務所に服役していたが真犯人が判明したことで釈放される。犯人は刑務所で親しくしていた女囚で、真相を告白した後自殺していた。しかし黒幕がおり、今は豊かな暮らしをしている元恋人だと知る。出所後実の娘には会えたが息子は行方が知れないという。息子のことを案じつつ元恋人への復讐を企てる彼女は貧しい行商の玉子売りや浮浪者の少女、女装したゲイの男たちと知り合う。そして玉子売りの手引で拳銃を手に入れるのだが…

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神戸の元町映画館で観賞。
チケット購入時に4時間弱の映画で途中休憩がないと知らされる。知らなかった。そんなに長い映画だなんて。

映画が始まるとハリウッド映画なら割愛するようなシーンが続く。この調子で4時間続くのかと少し憂鬱な気持ちだった。しかし映像の美しさに次第に引き込まれて行く。
予告編の通りモノクロの映像なのだけどそれがとても美しい。超高精細の画像を見せられているようで画面の端から端までくっきりとした像が映し出される。そして白と黒のコントラストが強く、影になった人物の表情は見えないほど。でもその映像が美しい。
そして全てのシーンの奥行きが深い。人物が手前から向こうの方に歩いて行くというシーンでは最初画面からはみだすほどの人影が向こうに行くほど小さくなる。当たり前のことだけれどそれがくっきりと分かる。何百というレイヤーを重ねているよう。たぶん照明の効果で奥行きが表現されているんじゃないだろうか。それとピント。あと構図。色んな効果が使われているのじゃないだろうか。とにかく立体的で映画の中の世界が深いことを見せてくれる。映像が美麗で浮浪者の少女の髪を洗う場面、貧しい家の軒先、うらぶれた街角、そんなシーンさえ美しい。

終盤、主人公の女は息子の消息を辿る為にマニラに赴く。息子の写真を印刷したビラがマニラの裏通りに散乱する場面がただただ続く。この場面はリアルじゃない。本当にありそうな景色じゃない。でも映画だから許せる。許せるというか、こういう異世界のような場面を見せてくれるからこそ映画の意義はある。脚本が、演出が、映像が、リアルであるかどうかにこだわっていると映画の魅力を観損なうことになる。幻想的だから良い映像というのもある。

4時間弱の間退屈する間もなく、このままずっと続けば良いのにとさえ思った。凄い映画。

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