私の男

2014年、日本、熊切和嘉監督作
原作は桜庭一樹の同名小説

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良い。とても良い映画。冷たくて殺伐としていて何も美しいものが映らない場面が連続していてそこが良い。錆びた漁船や荒れた海、何の変哲もないバスターミナル、ただの道、選び抜かれた印象が良さそうな景色ではなく、本当のそこにある景色が映っている。
原作は随分昔に読んでとても感動した覚えがあったがもう物語の細部は忘れてしまっている。だから原作とどこがどう違うのか分からない。ただ結末は映画とは違ったのじゃないだろうか。
原作はもっと濡れた情感のある印象だったが、映画の方は乾いている。何の救いもない話を殺風景な北海道のうらぶれた景色が支えている。熊切監督は北海道出身で2010年の『海炭市叙景』も北海道のお話だった。北海道の景色とそれが醸し出す雰囲気を見事に活かしていると思う。

派手な映像は無いので、俳優の魅力が人物の内面を滲み出す映画なわけだけど、浅野忠信二階堂ふみが凄いのは言う必要もないことで、それよりも河井青葉という女優さんがとても良かった。その美しさもさることながら、言い様の無い悔しさみたいな感情が滲み出ていてとても名演だったと思う。

映画を観ながら、音楽がとても良いと思っていたら、音楽を担当しているのはジム・オルークジム・オルークを真面目に聴いてこなかったことを後悔した。画面に寄り添っていてそれでいて邪魔にもならないし出過ぎもしない。でもそこでこの音楽が鳴ることで良い場面になっているという場面が幾つもあった。

北海道の人が羨ましい。熊切監督のような人がいるおかげで現代の北海道の景色が映画として記録される。何もまやかしのない、綺麗に着飾った景色ではなく生の本当の風景が切り取られ映画として残っている。北海道の人が羨ましい。