小さいおうち

2014年、日本、山田洋次監督作
女中奉公に出向いた女性を視点に、ある一家を舞台に戦前、中、後を描く家族劇。原作は中島京子の同名作。

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松竹映画で家族劇で室内劇であるということで山田洋次の小津リスペクトが感じられる作品です。以下は文句、賛辞も含めて乱筆。

室内劇を描くのに照明はとても大事だと思うのです。小津映画の画というのは自然に外光が差し込んでいて部屋の明るさがあるという風に感じられるのだけれど、本作は照明が当たり過ぎていて明る過ぎる感じがするのです。それは真っすぐリアルであるかどうかというところに直結するのです。殆どがセットによる撮影だと思われるのですが、それが「あーセット撮影なんだろうな」と思えてしまうという。小津映画のモノクロ作品を見慣れているせいかも知れないけれど、そこのところは不満でした。

主演の黒木華がとても良いです。他の演者がスターな光を発しているのに対して、地味ではあるけれど女中という役のリアルさでいうと彼女が一番リアルな演技をしていたと思います。

倍賞千恵子が老女の役をやっていたのが軽い衝撃でした。もうお婆さん役を演じる年齢なんですね。

台詞まわしがどうも演劇みたいなんですよね。普通の人はこんな風にきっちり話さないんじゃないの?と思うんだけど、どうなんでしょう。

松たか子は演技巧者なんだなと思いました。優しい母、貞淑な妻、恋に身を焦がす女、それを邪魔しようとする者に対する少し意地悪な目線と色んな顔を使い分けています。

小津安二郎が描いた現代劇は今(2015年)の人間の目線からすれば軽い時代劇なのですよね。でも山田洋次が過去を撮ればそれは時代劇とは見えないわけで、その点では多少、山田洋次に厳しい評価をしてしまいそうです。山田洋次は『男はつらいよ』というシリーズで、幾分純化された姿ではあってもその時代を描いていたわけで、それが過去の時代を描くというのはある意味挑戦だったのではないかと思います。でも山田洋次の描く現代劇はとても好きです。

原作は未読ですが、ある家族を通して時代を描くというのはとても意義のあることだと思います。それは民衆史と呼んでもいいものだと思うので。戦前/戦中/戦後の時代を描いたものと言えば戦争に行った兵隊、軍部、時の政治家と戦争の主役といってよい人々を描いたものが多いと思うのですが、戦時中の戦争に行っていない人々の機微を描いたという意味で意義がある作品だと思います。

赤いやかんがでてきます。ここは小津イズムの継承ですね。

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