黄金を抱いて翔べ/高村薫 著

大阪の大銀行の金庫室から金塊を盗み出そうとする男たちの犯罪小説

黄金を抱いて翔べ

黄金を抱いて翔べ

 

 1990刊行の小説なのでもう25年も前の小説になります。でも今読んでも抜群に面白いと思うのです。狙う銀行は住田銀行となっていますが、完全に土佐堀川沿いにある三井住友銀行本店のことを想定して書かれています。大阪市内から北大阪を舞台にして描かれているので、そこに書かれている場所のことが手に取るように分かって、町の匂いまで分かる感じがします。ちょっと前にも書いたけど、東京の人は色んなドラマや小説を読んでいつもこんな感触を味わっているんだろうかと思うと羨ましいです。でも大阪はまだ恵まれてる方かな。

殆ど女が出てこない物語で滅茶苦茶男くさいです。これを女性が書きあげたということにも驚きます。でも男色の絡みもあったりしてBLの先取りなのでしょうか。その点は女流作家ならではなのかもと思いました。

90年だと携帯電話はまだ普及していなかったでしょうか。本作の中では携帯電話は出て来ません。犯罪小説なので、強盗団の連絡手段として、今ならば必須ではあるけれど、そこは時代を感じさせます。
犯罪小説でなくとも純文学、普通小説というものでも携帯電話があるのかないのかでは物語の筋運びには大きく影響があるんじゃないかと思います。数十年後、文学史というものを語るうえで、携帯電話の普及前と後では大きく違ってきているんじゃないか、なんてことも考えました。