グッバイ・レーニン!

2003年、ドイツ、ヴォルフガング・ベッカー監督

東西冷戦下、東ドイツに住む両親と姉弟の家族、父親は西ドイツに亡命し、母親はその反動で社会活動に邁進するが突然の病気で寝たきりになってしまう。彼女が眠っている間に東西ドイツの壁は崩壊し、母親は意識が戻ったももの余命幾ばくもないと宣告され、激しい刺激は無用であることから息子は東西ドイツの統一を隠し通そうと芝居をうつ。

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傑作です、凄い傑作です、超傑作です。この文章を読んでくれている人がいたら是非見て欲しいです。本当に傑作なんです。それは家族の話であり、母親の話であり、父親の話であり、姉弟の話であり、夫婦の話であり、親の介護の話であり、恋の話、知人、友人の話、劇中内劇、社会主義と資本主義、政治体制に翻弄される庶民の話と色んな要素が詰まってます。どうか観て欲しいです。本当に傑作なんです。

母親が東西ドイツの雪解けの前に倒れてしまって、意識が戻った時には東西は融合し始めていて、でも彼女は余命幾ばくもないのだからと嘘をつき通そうとするのですが、そこのところがコミカルに描かれます。笑いというものは笑いではあるけれど、その裏には笑うしかないという無力さが描かれているのです。笑いというのはただ可笑しいという即物的なものではないのです。

映画で描かれる物語は目標というか焦点というか太い幹というか何かしらの主題があると共に、そこに絡み合う様々な感情が描かれることで作品の奥行きが深くなるというか、その幹が太くなるというか、そういうものだと思います。本作は東西ドイツの統合という社会体制の変革を軸に親子、夫婦、姉弟と家族の様々な感情を描いていて、とてもとても奥行き深くて滋味深いです。

とは言いつつも観る人によって温度差はあるとは思います。本作は余命幾ばくもない母親を介護するというお話でもあるわけで、自分は母親を看取るという経験をしているからこそ、この映画が心に響くのだろうなとは思います。その気持ちが誰にでも理解される、共感出来ることだとは思いません。自分が、もし母親がまだ元気でいたらこの映画を観て心に響かなかったかも知れません。

自分の場合は、母親に癌が再発して、それまで彼女が再発防止にあらゆる努力をしてきたのを見ていたので、もって数カ月という医師の宣告ををとても母親に伝えることができませんでした。ベッドに横になって日に日に弱る母親の傍で、きっと良くなると嘘を言い通して来ました。その光景、記憶がこの映画に重なって涙するということではあります。

でも父親のない子供はいても母親のない子供はいないでしょう?どれだけ母親と確執があったとしても、あなたが育って生きているのは母親がいたからではないでしょうか。この映画では色んな感情が描かれているけれど、母親に対する愛情というのは国が違っても、誰かの子供である人間の共通の気持ちではないでしょうか。それは失って初めて分かるものなのかも知れないけれど。

本当に本当に傑作なので是非観て欲しいです。

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