聖の青春/大崎善生 著

29歳で夭逝した天才棋士村山聖(さとし)の生涯を描くノンフィクション

聖の青春 (角川文庫)

聖の青春 (角川文庫)

 

村山棋士は幼少時からネフローゼという腎臓の病気に罹病して、時に病気と折り合いをつけながら時に病身をおして棋士生活を送り、病と闘いながら棋士として成長していく。そして若くして力尽きる。本作では村山棋士棋士としての成長を縦軸に、そして彼を支える周囲の人達との人間模様を横軸にその生涯を描きだします。

子供の頃から死と隣り合わせであったことからくるその考え方、優しさ、そしてそこからくる将棋に向かう姿勢が心に響きます。結構無茶苦茶なお人柄なところもあるのですが、無茶をしていてもどうしても憎めない人って居ますよね。愛すべき村山棋士の人柄が伝わって来ます。白眉は将棋に勝つことは誰かを負かすことだということで悩むと言う底なしの優しさでしょうか。後半の病気と闘いながら対局にのぞむ姿は壮絶でした。

一方彼の周囲の人達の中で大きく太い柱が師匠である森信雄棋士です。この師弟の暮らしぶりも又はちゃめちゃなのですが、様々なエピソードからこの師弟の愛情の深さが滲み出ています。

将棋の世界での主役は何はともあれ対局でしょうが、将棋をあまり知らない人間にとってはどのような戦いかを説明、描写されてもその凄さは分からない。本作はその点を最小限に抑えて棋士達の人間ドラマとして描いているので将棋に詳しくない自分にも十二分に感動的でした。

本作は映画化だそうです。既にドラマ化されていて主演は藤原竜也さんだったらしい。いい配役ですよね。観たかった。映画化に期待すると共に、お涙頂戴の難病ものとして消費される映画にならないで欲しいと思います。