バンコクナイツ

2017年、日本/フランス/タイ/ラオス富田克也監督作

タイ、バンコクに生息する日本人たちとタイ人娼婦たちの物語

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面白い。というか心地良い。観ている間ずっと気持ち良い。

物語としては、主人公の元自衛隊員の男とタイ人娼婦の関係と彼等の居場所探しということになるのだろうが、そこんところはどうでもいい。本当はいいことないんだけど、台詞がとても聞き取り難くて細かいところがよく分かんなかった。でもそんなことはどうでもいいのです。気持ち良い映画だから。

タイのバンコクという都会、ノンカーイという地方の町、そしてラオス、どの場所も活き活きと撮られていて街が生きてるという感じがする。そこに人が住んでいて生活している感じがする。生の現代の景色が取捨選択なしに切り取られている感じがする。実際には映画の物語に合った場面、景色を考えて撮影場所は選ばれているはずだが、そういう作為を感じさせない。今、そこに登場人物が偶々いるだけのように見える。この作られた景色だと感じさせない雰囲気はどこからくるのだろう。役者が誰も彼もあまり上手じゃない感じがするからだろうか。どこか素人っぽさがあるから親近感があり、自分の周りにいそうな人間だと感じるからだろうか。よく分からない。でも美しい。

粗っぽくテーマをまとめるなら、「自分の居場所探しの旅」というものになるだろうか。日本からあぶれてアジアの国に居場所を求めたダメ人間たちは、それだけで旅をして自分の居場所を探してバンコクに辿り着いたことになるだろう。主人公の男女が彼女の故郷であるタイの地方の町へ帰る旅も彼女の居場所のようでいてそうでなかったことになり、彼女は再びバンコクに帰る。居場所を求めて移動している。そして主人公の男はそこから更にラオスへ旅をして戦争の痕とこれも居場所を求めている若者たちに会う。主人公は、日本に居場所がない、という台詞さえ吐く。でもテーマなんてどうでもいいのです。心地良い映画のリズムの上に浮かんでいればそれだけで気持ち良いのだから。

主人公の男が出会う、幽霊と呼ばれる連絡員の男はタイの森林地帯に潜伏していたベトナム共産主義者だし、ラオスの爆撃の痕はインドシナ戦争を現している。タイだけでなくインドシナ半島の歴史にも目が行き届いていて、見落した部分や分からなかった部分がある気がする。もう一度観たい。音楽も素敵です。

主人公の俳優が良いなあと思ってたら監督さんなんですね。知らんかった。

おいしい生活

2000年、米国、ウディ・アレン監督作
元盗人の男(ウディ・アレン)とその一味は銀行の隣の空き店舗を借りてそこからトンネルを掘り金の強奪を図る。カムフラージュの為にその店では妻にクッキーを販売させるが、強盗計画は失敗に終わり逆にクッキー店は大繁盛する。菓子製造会社として夫妻と一味は成功して大金持ちになるが、やがて夫婦の間に亀裂が生じて…

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面白い。軽妙という言葉がこれほど似合う映画はないのじゃないだろか。ウディ・アレンはこういう映画をもっと作って欲しいな。『それでも恋するバルセロナ』や『ミッドナイト・イン・パリ』みたいなのも良いけど、軽いコメディーが楽しい。

もう登場人物がみんなダメ人間で愛らしい。一人も切れ者が出てこない。強盗の一味が集合した時点で「これはだめだ」と思ってしまう。

軽いコメデイーではあるけどウディ・アレンの映画はどこか洗練された雰囲気があるんですよね。もうこれはアレンの品性というものなのだろうけど、貴重なアメリカ映画だと思う。欧州の映画みたいですもん。

どこがどうとは言えないけどウディ・アレンってアメリカの志村けんだな、と思いました

私の男

2014年、日本、熊切和嘉監督作
原作は桜庭一樹の同名小説

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良い。とても良い映画。冷たくて殺伐としていて何も美しいものが映らない場面が連続していてそこが良い。錆びた漁船や荒れた海、何の変哲もないバスターミナル、ただの道、選び抜かれた印象が良さそうな景色ではなく、本当のそこにある景色が映っている。
原作は随分昔に読んでとても感動した覚えがあったがもう物語の細部は忘れてしまっている。だから原作とどこがどう違うのか分からない。ただ結末は映画とは違ったのじゃないだろうか。
原作はもっと濡れた情感のある印象だったが、映画の方は乾いている。何の救いもない話を殺風景な北海道のうらぶれた景色が支えている。熊切監督は北海道出身で2010年の『海炭市叙景』も北海道のお話だった。北海道の景色とそれが醸し出す雰囲気を見事に活かしていると思う。

派手な映像は無いので、俳優の魅力が人物の内面を滲み出す映画なわけだけど、浅野忠信二階堂ふみが凄いのは言う必要もないことで、それよりも河井青葉という女優さんがとても良かった。その美しさもさることながら、言い様の無い悔しさみたいな感情が滲み出ていてとても名演だったと思う。

映画を観ながら、音楽がとても良いと思っていたら、音楽を担当しているのはジム・オルークジム・オルークを真面目に聴いてこなかったことを後悔した。画面に寄り添っていてそれでいて邪魔にもならないし出過ぎもしない。でもそこでこの音楽が鳴ることで良い場面になっているという場面が幾つもあった。

北海道の人が羨ましい。熊切監督のような人がいるおかげで現代の北海道の景色が映画として記録される。何もまやかしのない、綺麗に着飾った景色ではなく生の本当の風景が切り取られ映画として残っている。北海道の人が羨ましい。

スキャナーズ

1981年、カナダ、デヴィッド・クローネンバーグ監督作
人間の心を読み相手を自在に操れる超能力者スキャナーを巡る陰謀とスキャナー同志の闘いの物語。

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リストア版というものを観ました。だから画質が綺麗だったのかなあ。81年の映画なのにもの凄くクリアな映像でした。そし画面に格がある。クローネンバーグの映画というのはそれほどファンというわけでもないのだけれど、新作が公開される度に話題になって評価も高いので見ておかないとという気分にさせられるので幾つかは見ている。
この作品もクローネンバーグ初期の作品ということで名作の誉れの高い作品だけど、不穏な空気が滲みまくっていて、やはり評価が高いのが頷ける。不安になるんですよね、観てると。
その不安は音の影響からくるものも大きいような気がします。音楽もそうなのだけど、音の無い場面というのが多い。ずっと何かしらのBGMが鳴ってるような映画は少し鬱陶しいでしょう。音の空白の部分が多くてそれが、言い様の無い空虚さみたいなムードを醸し出してる。こういう静かな映画は好きです。

超能力者の対決はお互いの心を読む、という映画的に地味にならざるを得ない闘いを派手に演出してるのが素晴らしいです。役者の演技に依るところが多いけれど、どれも熱演で、悪役のマイケル・アイアンサイドが良いんですよね。この人沢山映画に出てるけど名作『スターシップ・トゥルーパーズ』が印象深いです。ポール・バーホーベンのバカ映画だけど名作です。

最初のスキャナー対決で頭が吹っ飛ぶ場面は、ルネ・マグリットの『快楽原則』ですよね。

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ワイルド・スピード ICE BREAK

2017年、米国、 F・ゲイリー・グレイ監督

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やり過ぎなんじゃないでしょうか。

前作『SKY MISSION』から秘密組織の別働隊みたいな扱いになってきて、アウトローから公権力側になってるんですよね。なんだか初期シリーズにあったやさぐれ感が薄くなってるんです。全部カート・ラッセルが悪いと思います。カートのせい。この人大好きだけどリアルさという意味では向いてないんじゃないでしょうか。カート・ラッセルが出てくると現実の世界が舞台のような気がしないから。『NY1997』のイメージが強過ぎるのかも知れんけど。

対して、前作で悪役として出て来たジェイソン・ステイサムが良い味出してます。この人が出てくるシーンは何だか心躍るものがある。終盤の飛行機の中での大立ち回りもそこここにギャグが埋め込まれていて英国紳士だなーと思います。

全体的に車で追いかけっこしなければならない必然性が少ないんじゃないでしょうかね。ワイスピシリーズはカーアクションの映画なわけで、カーチェイスをするにはそれなりの理由がいる。軍隊みたいな組織の外注をやってることになってるんだからヘリでも飛行機でも登場させられるわけで、それを車で追わないといけない必然性みたいなのは感じさせて欲しいのです。なんで車で追っかけるの?ヘリ出せばいいやん、と思ったら負け。

それでもNY市街でのカーチェイスは見所満載だし、雪原を走るランボルギーニという異様な絵柄は感動的でもある。でもカーチェイスはやっぱり市街地でやるから面白いと思うんですよね。悪くないけど。

このシリーズ、最後の場面で次回作に繋がる場面がちらりと明かさせる、というのがお楽しみなのですが、前作ではそれがなかった。今作ではどうなのかとエンドタイトルが始まってもお客さんが誰も席を立たなかったのはそれが有るかもしれないという期待だったと思うのだけど、その期待は裏切られたのでした。