おいしい生活

2000年、米国、ウディ・アレン監督作
元盗人の男(ウディ・アレン)とその一味は銀行の隣の空き店舗を借りてそこからトンネルを掘り金の強奪を図る。カムフラージュの為にその店では妻にクッキーを販売させるが、強盗計画は失敗に終わり逆にクッキー店は大繁盛する。菓子製造会社として夫妻と一味は成功して大金持ちになるが、やがて夫婦の間に亀裂が生じて…

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面白い。軽妙という言葉がこれほど似合う映画はないのじゃないだろか。ウディ・アレンはこういう映画をもっと作って欲しいな。『それでも恋するバルセロナ』や『ミッドナイト・イン・パリ』みたいなのも良いけど、軽いコメディーが楽しい。

もう登場人物がみんなダメ人間で愛らしい。一人も切れ者が出てこない。強盗の一味が集合した時点で「これはだめだ」と思ってしまう。

軽いコメデイーではあるけどウディ・アレンの映画はどこか洗練された雰囲気があるんですよね。もうこれはアレンの品性というものなのだろうけど、貴重なアメリカ映画だと思う。欧州の映画みたいですもん。

どこがどうとは言えないけどウディ・アレンってアメリカの志村けんだな、と思いました

私の男

2014年、日本、熊切和嘉監督作
原作は桜庭一樹の同名小説

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良い。とても良い映画。冷たくて殺伐としていて何も美しいものが映らない場面が連続していてそこが良い。錆びた漁船や荒れた海、何の変哲もないバスターミナル、ただの道、選び抜かれた印象が良さそうな景色ではなく、本当のそこにある景色が映っている。
原作は随分昔に読んでとても感動した覚えがあったがもう物語の細部は忘れてしまっている。だから原作とどこがどう違うのか分からない。ただ結末は映画とは違ったのじゃないだろうか。
原作はもっと濡れた情感のある印象だったが、映画の方は乾いている。何の救いもない話を殺風景な北海道のうらぶれた景色が支えている。熊切監督は北海道出身で2010年の『海炭市叙景』も北海道のお話だった。北海道の景色とそれが醸し出す雰囲気を見事に活かしていると思う。

派手な映像は無いので、俳優の魅力が人物の内面を滲み出す映画なわけだけど、浅野忠信二階堂ふみが凄いのは言う必要もないことで、それよりも河井青葉という女優さんがとても良かった。その美しさもさることながら、言い様の無い悔しさみたいな感情が滲み出ていてとても名演だったと思う。

映画を観ながら、音楽がとても良いと思っていたら、音楽を担当しているのはジム・オルークジム・オルークを真面目に聴いてこなかったことを後悔した。画面に寄り添っていてそれでいて邪魔にもならないし出過ぎもしない。でもそこでこの音楽が鳴ることで良い場面になっているという場面が幾つもあった。

北海道の人が羨ましい。熊切監督のような人がいるおかげで現代の北海道の景色が映画として記録される。何もまやかしのない、綺麗に着飾った景色ではなく生の本当の風景が切り取られ映画として残っている。北海道の人が羨ましい。

スキャナーズ

1981年、カナダ、デヴィッド・クローネンバーグ監督作
人間の心を読み相手を自在に操れる超能力者スキャナーを巡る陰謀とスキャナー同志の闘いの物語。

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リストア版というものを観ました。だから画質が綺麗だったのかなあ。81年の映画なのにもの凄くクリアな映像でした。そし画面に格がある。クローネンバーグの映画というのはそれほどファンというわけでもないのだけれど、新作が公開される度に話題になって評価も高いので見ておかないとという気分にさせられるので幾つかは見ている。
この作品もクローネンバーグ初期の作品ということで名作の誉れの高い作品だけど、不穏な空気が滲みまくっていて、やはり評価が高いのが頷ける。不安になるんですよね、観てると。
その不安は音の影響からくるものも大きいような気がします。音楽もそうなのだけど、音の無い場面というのが多い。ずっと何かしらのBGMが鳴ってるような映画は少し鬱陶しいでしょう。音の空白の部分が多くてそれが、言い様の無い空虚さみたいなムードを醸し出してる。こういう静かな映画は好きです。

超能力者の対決はお互いの心を読む、という映画的に地味にならざるを得ない闘いを派手に演出してるのが素晴らしいです。役者の演技に依るところが多いけれど、どれも熱演で、悪役のマイケル・アイアンサイドが良いんですよね。この人沢山映画に出てるけど名作『スターシップ・トゥルーパーズ』が印象深いです。ポール・バーホーベンのバカ映画だけど名作です。

最初のスキャナー対決で頭が吹っ飛ぶ場面は、ルネ・マグリットの『快楽原則』ですよね。

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ワイルド・スピード ICE BREAK

2017年、米国、 F・ゲイリー・グレイ監督

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やり過ぎなんじゃないでしょうか。

前作『SKY MISSION』から秘密組織の別働隊みたいな扱いになってきて、アウトローから公権力側になってるんですよね。なんだか初期シリーズにあったやさぐれ感が薄くなってるんです。全部カート・ラッセルが悪いと思います。カートのせい。この人大好きだけどリアルさという意味では向いてないんじゃないでしょうか。カート・ラッセルが出てくると現実の世界が舞台のような気がしないから。『NY1997』のイメージが強過ぎるのかも知れんけど。

対して、前作で悪役として出て来たジェイソン・ステイサムが良い味出してます。この人が出てくるシーンは何だか心躍るものがある。終盤の飛行機の中での大立ち回りもそこここにギャグが埋め込まれていて英国紳士だなーと思います。

全体的に車で追いかけっこしなければならない必然性が少ないんじゃないでしょうかね。ワイスピシリーズはカーアクションの映画なわけで、カーチェイスをするにはそれなりの理由がいる。軍隊みたいな組織の外注をやってることになってるんだからヘリでも飛行機でも登場させられるわけで、それを車で追わないといけない必然性みたいなのは感じさせて欲しいのです。なんで車で追っかけるの?ヘリ出せばいいやん、と思ったら負け。

それでもNY市街でのカーチェイスは見所満載だし、雪原を走るランボルギーニという異様な絵柄は感動的でもある。でもカーチェイスはやっぱり市街地でやるから面白いと思うんですよね。悪くないけど。

このシリーズ、最後の場面で次回作に繋がる場面がちらりと明かさせる、というのがお楽しみなのですが、前作ではそれがなかった。今作ではどうなのかとエンドタイトルが始まってもお客さんが誰も席を立たなかったのはそれが有るかもしれないという期待だったと思うのだけど、その期待は裏切られたのでした。

ワイルド・スピード SKY MISSION

2015年、米国、ジェームズ・ワン監督

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おなじみのキャラクターたちで構成されたファミリーの面々は、前作では国際警察に悪者を捕まえる手助けを依頼されたわけですが、今回は軍(?)の秘密組織みたいなところから色々依頼されます。もう秘密戦隊っぽくなってる。
空を飛ぶ飛行機から出撃するわ、無人機からロケットで攻撃されるわ、相手はテロリストだわ、ともうどこまでこの作品はいくのでしょうか。

本作で一番大事なのはブライアンを演じるポール・ウォーカーの遺作であること。撮影半ばで交通事故により亡くなってしまいました。ポール・ウォーカーはこのシリーズでは『x3 TOKYO DRIFT』以外には全て出演していて、ドム(ヴィン・ディーゼル)とポールウォーカーの二人が主役のシリーズだったわけで、彼がいなくなると本作はどうなるのか、と言われていましたが、CGなども含めて上手くお話をまとめています。

監督が3,4,5,6と続いたジャスティン・リンからジェームズ・ワンに変わったせいもあるのか過去作からの引用や繋がりは少し薄めですが、それでも辻褄が合うように色々と仕掛けはあります。

ラストシーンでは次回作に対する繋ぎが登場するこのシリーズですが、本作ではその点は見られません。それでもポール・ウォーカーヴィン・ディーゼルの別れと回想シーンではシリーズを通して見てきた者にとっては落涙必至。こんなん泣いてまうやろの世界。

 

ということで、ワイルド・スピードシリーズの復習も済んだので現在公開中の8作目『ICE BREAK』を観に行ってきます。